心の余白帖 | 台所は、その人を映す鏡
- Sakura Nimura
- 2月23日
- 読了時間: 2分
更新日:4月28日

「台所での作業には、その人の本質が出てくるのよねぇ。」
以前にお料理のレッスンを受けていたとき、年配の方がそう話していたのをふと思い出しました。
当時の自分は、雑に見られたら困る、と思い気を引き締めたのを覚えています。若かったので、それ以上はあまり考えませんでした。
でもなぜか、何年経ってもその言葉が頭のどこかに残ってしました。時折、料理人の方が作業する様子を見る機会があると思い出しています。
切る作業、洗い方、コンロでの作業、盛り付けの仕草など、台所ではいろんな動きがありますので、その動きの中にその人の個性がにじみるように思えます。
そんな記憶がまた久しぶりに蘇ってきたのは、幸田文さんのエッセイ『台所帖』を読んだからでした。
エッセイの中で文さんは、お父さまの幸田露伴氏が語った“台所の音”について触れています。
食に対する強いこだわりを持っていた露伴氏は、贅沢な料理よりも、丁寧に作られた家庭料理を愛していたそう。そして、料理中に台所から聞こえてくる音を、食の楽しみの一部として捉えていたのだとか。
幼い文さんには毎日の献立を記録するようにと教え、「センスよく、美味しそうに書くこと」を求めたそうです。そして「この帖面から音が聞こえてくるようにならなくちゃね」と語ったというエピソードが紹介されていました。
なるほど、と思いました。
音というのは、作業の仕方を映し出す要素でもあります。特に食に関しては、聞こえてくる音から多くのことを想像できますし、よく観察すれば、その人の人となりまで見えてくるかもしれません。
音が聞こえてきそうな品書きなんて、さすがは文筆家の感性ですよね。
『台所帖』は、そんな「食」と「台所」にまつわる様々なエピソードが、美しい言葉で綴られているエッセイ集です。
読みながら、昭和の暮らしの丁寧さを感じて、現在の自分を取り囲む日常のこまごまとしたこと愛おしさを感じさせてくれる、素敵な一冊です。
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